パニック症

マチコさんの場合

ある朝、マチコさんは通勤のため、特急電車に乗りました。電車が動き出してしばらくすると、突然胸の鼓動が高まり、息が苦しくなってきました。自分の体に大きな異変が起きたと考えたマチコさんは強い恐怖を感じました。息苦しさはひどくなるばかりで、おさまる気配がありません。次の停車駅で降り、やっとの思いでホームのベンチに座り込み、休むことができました。

その後も似たような「発作」が続いたため、マチコさんは内科を受診したのですが、体のどこにも異常はないとのことでした。発作が起きるようになってからマチコさんは特急電車ではなく普通電車に乗るようになったのですが、そのうち普通電車でも発作が起きるようになり通勤ができなくなったため、仕事をやめざるを得なくなりました。

また発作が起きるのではないかと不安になってしまうため、マチコさんは車やバスに乗ることも極力控えるようになりました。どうしてもという場合は親や友達に頼んで一緒に外出をするのですが、以前と比べ、活動の範囲が大きく狭まった状態が続いています。

タダシさんの場合

タダシさんは会社員です。タダシさんも上記のマチコさんと同じような状態になったのですが、かかりつけの医院でパニック症と診断され、「安定剤」をもらいました。安定剤の効果は抜群でした。何となく息が苦しくなってきたらすぐに飲めば、不安がおさまってくるのを実感できたのです。

タダシさんはどんなときでも安定剤を肌身離さず持って行動するようになりました。定期的に朝、昼、夕と1錠ずつ。発作が起こりそうになったら別の安定剤をすぐに飲むのです。大きな発作も、安定剤を飲み始めてからはなくなりました。

表向きは、タダシさんはパニック症を克服したかのようでした。しかし、タダシさんの生活は、これまでとずいぶん変わりました。パニック発作が出やすくなると聞いたので、あれほど好きだったコーヒーを飲まなくなりました。人ごみが怖いので、繁華街には行かなくなりました。電車に乗れなくなったので移動はもっぱらマイカーなのですが、高速道路に入ることができず、遠出ができなくなりました。

ときおり、タダシさんは考えるのです。「パニック発作は確かに少なくなった。以前ほど不安に悩まされることもない。だけど、なんだか生活が窮屈になっている気がする、、。」

解説

(もちろん架空の人物ですが)マチコさんはパニック症の典型的な例です。パニック発作(動悸、息苦しさ、めまい、胸部や腹部の不快感などが突然おり、10分ほどでピークに達する)が繰り返し起こり、また発作が起こるのではないか、発作が重大な結果を引き起こすのではないかという心配が続いたり、これらを恐れるあまり行動スタイルが大きく変わってしまうというのがその症状です。また、パニック症をもつ方の多くは、逃げるに逃げられないような場所(電車、車、繁華街の雑踏、列に並ぶこと、橋の上など)にいることを避けるようになります。これを広場恐怖といいます。当然、活動の範囲が狭まるわけですから、生活の質に大きな影響を及ぼしてしまいます。

(やはり架空の人物ですが)タダシさんの場合はどうでしょうか。薬物療法が功を奏しパニック発作がほとんど出なくなっても、タダシさんのように、以前出来ていたことができないままの方もいらっしゃいます。パニック発作を抑えるための闘いを優位に進めているようにみえる一方で、本当にしたいこと、これまで当たり前のように出来ていたことが出来ないままだとしたら、どうでしょうか。

自分の困りごとはマチコさん、タダシさんと同じだ、もしくは、似ている、と感じられた方は、ぜひ当クリニックにご相談ください。

パニック症の治療

パニック症には薬物療法が有効です。ある種の抗うつ薬が症状を軽減することが示されており、わが国でも保険適応となっています。また、認知行動療法も同様に有効であることが示されています。当クリニックの一般外来においては、薬物療法を主軸としながらも、治療者がこれまでに学び、実践してきた認知行動療法のエッセンスを組み込んだ治療を提供いたします。一定の条件を満たした場合には、認知行動療法などの専門的な心理療法(完全予約制:予約料がかかります)を行うこともあります。